Thursday, February 26, 2009

「米ドルは大丈夫、ワシが保証する」麻生首相大きく出る

麻生首相が外国要人として初めてワシントンにオバマ大統領を訪問していたというニュース。

こちらアメリカのメディアは、完全に無視してた。

そんな中で、かろうじてワシントン・ポスト紙だけが、オバマ訪問後の麻生さんにインタビューし、その質疑応答を24日付けで掲載していた。

記事:Japan's Taro Aso in Washington
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/02/24/AR2009022403109_pf.html

このインタビューで麻生氏は、ロシア首相の印象、ヒラリー訪日、ブッシュ前政権への不満、北朝鮮問題などに言及していたが、後半は経済問題について語った。

記者のひとりが昨今の米ドルの動きと今後増発される米国債の話に触れ、麻生さんが1992年以降の日本の経済状況と比較して返答する部分があるので、そこの部分を意訳して、ここに紹介したい。(拙訳失礼)

(なお、オリジナルの英文記事テキストは、このエントリーの一番下に全文掲載してあります。)

   ★   ★   ★

【記者】「前回ワシントンに12月にいらしたとき、あなたは米ドルが世界の基軸通貨でい続けることが重要だと仰っていましたね。米国は今後国内景気対策等に向け借入を増やすことになりますが、これが通貨としてのドルの位置を脅かすという懸念をあなたは抱いておられますか?中国は他の通貨を追い求めるようになると思われますか?」

【麻生氏】「米ドルの価値下落は中国にとって痛手になるから中国がそういう行動に出るとは思わない、また8000億ドル規模の景気対策は米国にとって正しい選択であると考える。」

「金利がゼロまで落ちていながら企業からの借り入れが起こらず投資が生まれないという状況に陥っているときに、国が借り入れをして財政投融資を活発にやらなければ景気は恐慌状態になってしまう。」

「日本でも1992年に不動産価値が87%も下落するという状況に直面したが、それでも年間GDPは5兆ドルレベルを維持できた。それは、日本政府が銀行に預金と言う形で寝ているお金を積極的に借り入れ、それを公共事業や財政刺激策にまわしたからこそだ。」

「そうやって国が借金した結果、金利はあがったか?日本国債の価格が上昇したか?実際、答えはノーだ。わたしが今ここに持っているチャートが示すとおりだ。」

「従って、米国の場合も、連銀のバランスシートが良好で、かつ、米ドルへの信頼を維持することができる限り、米ドルが危機的状況に陥るということはありえない。私が保証してもいい。

「ドルと比較して高くなっている通貨は現在、日本円だけだ。他国の通貨はどれも対ドルで弱まっている。」

【記者】「手にもっておられる、そのチャートは、大統領にも見せたのですか?」

【麻生氏】「イエス。」

【記者】「大統領はそれを見て何と言ってましたか?」

【麻生氏】「その場でいきなり渡したので、そこで読んでいた。注意深く読んでるようだった。」

【記者】「よく巷では、日本の「失われた10年」は、財政出動による景気刺激策には効果がないことの証拠、と呼ばれていますが、(いまのあなたのお話をまとめると)それは、間違った解釈である、と?」

【麻生氏】「間違った解釈だ。もちろん、日本がやったことすべてがうまくいったなどと言うつもりはない。しかし、財政出動で日本が恐慌を逃れることができたのは確かだ。わが国も、金利がゼロに落ちながら経済は引き続き停滞するという状況を経験した。そういう状況下では金融政策よりも財政政策に力を入れることが必要だ。」

   ★   ★   ★

「わたしが保証してもいい」

麻生さん、ギャランティ(保証)とは、大きくでましたね。

でも、ギャランティとしては、ぜんぜん効力なし、って気もするんだが。(爆)

ま、たしかに麻生さんの言うとおり、金利がゼロまで落ちてしまったら、金融政策のコマは限定的になり財政政策しか残ってないというのはその通り。

でも、米国が発行しようとしている大量の米国債を「誰が消化するのか」という、そこが問題なんだよね。需給のファンダメンタルズが米国とは全然違っていた日本のケースはあまり参考にならないんじゃないのかな。

日本が国債を増発し続けてる最中、国債の買い手になってたのは、日本の銀行や金融機関たちだった。

当時の日本の銀行達も、現在のアメリカの銀行に似て、貸出金増やそうにも借り手のクレジットリスクが怖くて積極的に貸すことなんてできなかったし、でも円の預金(キャッシュ)は着実に増えてゆくしで、銀行がお預かりしていたニッポン人の大切な金融資産(←金利ゼロだから利子ほとんどついてないのに増え続けた)を使って、日本国債ガンガン消化してたんだ。それは麻生さんの言うとおりよ。

これでもか、これでもかと国債増発し続けたのに国債イールドめっちゃめちゃ低くなって、これ以上国債持っててもしょうないからと、大手保険会社なんかは高金利求めて米国債ワサワサ買ってキャリーしてたりもしてた。

でも、米国の場合、日本みたいに「銀行システム内に眠ってるキャッシュ」がそんなにないんだよなー。

全米の商業銀行のバランスシートに乗ってる預金総額はおよそ8兆7000億ドル。アメリカのGDPの約半分ってところでしょうか。

日本の場合は、当時、商業銀行の預金総額500兆円ぐらいだった。日本のGDPとほぼ匹敵する額で、日本人ってのは、本当にマジメに預金する国民なんですねー。(日本の場合は、これにさらに、郵便局の200兆円ってのもあったからね。)

各々の国の経済規模と比較して預金プールの大きさを考えると、米国の預金プールってのは日本ほど潤沢にない。 というより、日本の預金プールサイズが異常だったんだけど。

日本が財政出動に必要な資金として日本国債をバカスカ発行できた背景には、それを買う資金が国内にドップリあった、ってのが大きい。

一方の米国債のほうは、消化先が日本みたいに国内じゃなくて海外の割合が高い、とりわけ中国と日本の持分が大きい。

国債については、私は専門分野が違うので常識程度のことしか知らないけど、日本国民の巨大な金融資産のおかげで国債発行をクルクルまわしてた日本と、買い手側の構造が全然違う米国とを比べて通貨への影響を推し量っても、あまり意味ないんじゃないか、と・・・。

そして、以前から書いてるけど、米国債はすでにバブリまくっている

バブってバブってこれ以上バブれないときがきたら暴落する。政策金利がゼロにへばりついたままでも国債イールドは跳ね上がる、ってやつさ。これも以前ここのブログエントリーで書いたけど、日本では、りそな救済後まもなく「テクニカル要因」で国債イールドがビョーンと跳ね上がったんだもん。

中国が現時点で、喜び勇んで米国債をポートフォリオにガンガン積み増ししてゆくとは思えん。警戒するでしょ、ふつうなら。

中国の出方次第では、米国にとっての借り入れ金利はいずれ上昇し財政負担は重くなる。オバマの景気対策がどれくらいの金利水準を前提にしてシナリオ立てて組み立てたのかは知らないけれど、米国債と米ドルを取り囲んでいる状況は不安定極まりない。

   ★   ★   ★

バラ撒きがお好きそうな麻生さんは、日本では(自民党の)財政政策が功を奏して危機を救ったと言いたいようだけど、日本の国債発行のトレンドを時系列で眺めると、暗い気持ちにしかなれないよ。

今年2月5日にニューヨークタイムズに掲載された『日本の巨額の財政政策から学ぶこと』と題された記事。

Japan’s Big-Works Stimulus Is Lesson
http://www.nytimes.com/2009/02/06/world/asia/06japan.html?sq=japan,%20debt,%20&st=cse&scp=3&pagewanted=all

この記事の中に、目を引くグラフが二つ、載ってます。(小さくて見づらくて恐縮です。)




上がGDPに対する公共投資(インフラ事業)の割合、下がGDPに対する政府借り入れの割合で、赤が日本で、緑が米国。

上のグラフを見ると、たしかに90年代前半バブル崩壊後から日本の公共投資はGDP対比でグーンと増えてますですね。で、97年98年と立てづづけに拓銀・長銀・日債銀など大手銀行が破綻したあと、すこし落ち着いてきたかなーって感じで、グラフは下降ぎみに。そして、2000年過ぎて金融危機が再燃してきてからも、小泉政権のもと、公共投資の割合は減り続ける。

しかし、日本国債残高のほうはどうなったかというと、これが全然減ってないんだな。GDP対比で160%という数字は、先進国の中でダントツの借金漬けである。

これらと比べると、米国の財政状況は悪化してきてるとはいえ、日本ほど深刻になるまではまだ余裕ある。暗い中にも一条の光・・・。

オバマの景気刺激策は雇用創出のためにインフラ事業に力を入れるそうだから、上のグラフは、これから上がり気味になってゆくことでしょう。そして、米国債も、今後の大量増発で、残高も上がり気味になる。

90年代バブル崩壊直後、GDP対比で6%超もに相当する公共事業を積極的に行って経済沈没を防いだ日本。

そして2009年のいま、日本に住むみなさんは、麻生氏が言うように、公共事業による経済効果は高かった、と思われますかしら?経済効果は持続している、と思われますかしら?

上のニューヨークタイムズの記事は、アメリカの市場関係者がこんにち自国に対して抱いている共通のセンチメントをあらわしている。「これからアメリカもこうなるのか・・・」という沈鬱なセンチメント。ワシントンポスト紙の記者が「ちまたの評価は間違った解釈だというのか?」と麻生氏に切り込んでくるのは当然である。

麻生さんが「わたしが保証する!」と力強く言ってくれても、胸をなでおろすひとなんて、どこにもいやしないさ。

麻生氏とのこの会見を終えて部屋を出たワシントンポストの記者たち、ふたりでどんな会話をしながらオフィスに戻ったのだろう。

わたしの想像では、首を横に振りながら、こう言っていたと思うな。

「アメリカも日本も、どっちもヤバイな・・・。」


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(以下はワシントンポストに24日掲載された麻生首相のインタビュー記事全文)

Japan's Taro Aso in Washington

Wednesday, February 25, 2009; A19

President Obama yesterday received his first foreign leader in the White House, Japanese Prime Minister Taro Aso. Afterward, Mr. Aso spoke, mostly through an interpreter, with Post editorial page editor Fred Hiatt and diplomatic reporter Glenn Kessler.

Aso: The meeting with the president was -- his way of speaking is very straightforward, very sincere. For me, very impressive.

The Post: How did he compare with Russian President Medvedev, whom you also just met?

Aso: On President Medvedev, I would say that unlike Prime Minister Putin, in comparison, for example, he gives you the impression he is not a military man, not a KGB man, that he's a politician. If he wasn't a politician, he would be someone to work with as a lawyer, and I could imagine that very much. . . .

Do you think North Korea policy will change under the new U.S. administration?

I must say, the six-party talks in approaching North Korea are a useful framework. Previously, we always had a close relationship between the United States and Japan on this issue, but, increasingly, we see South Korea, under the Lee [Myung-bak] administration, coming toward our side, the U.S.-Japan side, on this issue. It used to be four to two, but now it is at least three to three. That has changed a lot.

Moreover, the fact that Secretary [Hillary] Clinton has explicitly talked about the importance of having verifiable inspections on the nuclear issue, that is very important. In the latter days of the Bush administration, I believe there was a tendency to engage in discussions putting the issue of verifiable inspections in a bit of vague wording. In that sense, the fact that Secretary Clinton was quite explicit about the verification inspection aspect is quite welcome.

If they don't allow verifiable inspections, should they be put back on the list of terrorism sponsors?

If you look from the North Korean perspective, I believe there's a sense on their side that the reason they're able to talk with the U.S. is that they have the nuclear issue, and that if they didn't have that, they'd only be a simple, poor nation. I think we have to keep that in mind.

Of course, I don't think North Korea will easily decide [to] abandon its nuclear capabilities, but . . . with the world economy becoming more difficult, I believe the cards on hand for North Korea are becoming more restrained and more restricted. . . . It's maybe difficult to move too urgently, and, in terms of North Korea, it's probably more difficult for all the players to move.

What should happen if they launch a long-range missile?

It would be important for the U.N. Security Council to take the issue on the agenda immediately.

The last time you visited Washington [in December] you spoke of the importance of maintaining the dollar as lead currency. Do you worry that U.S. borrowing for stimulus and other purposes could endanger the dollar? Will China seek other currencies?

I do not think such a thing would happen. First of all, the reserves of foreign currency that China holds are almost entirely in dollars. I believe they would not take action that could risk devaluation of the dollar.

I believe the U.S. government's decision to use the $800 billion stimulus package and invest into public works, I think this method is the correct one. . . . The United States is currently seeing an unprecedented phenomenon in which even if interest rates are zero, businesses will not borrow money to invest into equipment. In such a situation, unless the government goes ahead and borrows that money, then we'll see a depression.

In Japan, we faced a situation in 1992 when property prices, or assets, went down in value by 87 percent, and yet we were able to maintain our GDP of $5 trillion. I believe this was because the government went ahead to borrow the money that was stocked in banks and used it on public works and other fiscal stimuli. As a result, did the interest rates go up? Did the prices of bonds that the government was issuing, did they go up? Actually, no, as you can see on this chart that I have in front of me . . .

Therefore, in the case of the U.S., as long as the [Federal Reserve's] balance sheet is clean, as long as you are able to maintain confidence in the dollar, there's no chance of the U.S. dollar going into a critical situation; I'll guarantee that. . . . Compared to the dollar, the only foreign currency that is strengthening right now is the yen. All the other currencies have only weakened versus the dollar.

Did you show that chart to President Obama?

Yes.

What did he think of these charts?

Well, I gave them on the spot to him, so he was reading them, I believe, quite carefully.

So, though it's often said here that Japan's "lost decade" proves that fiscal stimulus doesn't work, that's the wrong interpretation?

Wrong interpretation. . . . Of course, I'm not going to say that everything we did at the time worked. But I believe the measures we took made it possible for us to avoid a depression; I think that is for sure. We were in a situation where the interest rates were zero but the economy was still not working. . . . In such a situation you have to resort to fiscal policy, rather than financial policy.

We understand you gave the president some Shinkansen [bullet train] advice?

[Laughs and shows another chart.] My beautiful handwriting: In Tokyo, over 10 million population; they rely on railroads 76 percent; in U.S., over 90 percent [go] by auto. Railroad!

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