Wednesday, March 11, 2009

「売り疲れ」のNY市場、はしゃいだ後ですぐに息切れ



昨日10日のダウは一気に379ポイント上昇。前日までの鬱々とした雰囲気から一転、金融株を中心に買いが戻った。ショートカバー(空売りをカバーするための買戻し)のみならず、実際の買いもかなり入った様子である。

10日の急上昇の背景として、シティのCEOヴィクラム・パンディット(Vikram Pandit)が9日付けの社員向けメモで「2009年の2ヶ月は収益があがっている」と延べ、銀行セクターの業績悪化が底を打ったというスペキュレーションが蔓延したのが理由のひとつ。もうひとつは、取引開始前の米東部時間朝8時半から、ワシントンDCの某研究機関でバーナンキ連銀議長の講演があり、その講演内容がポジティブだったことも支えになった。

ここのところ、市場は【売り疲れ】状態でしたからね。

NY株市場、毎日暗いニュースばっかで、うんざり。これ以上売るものないってぐらい売りまくり、みんな脱力して、ぼんやり。

うんざり+ぼんやりしてたところ、『国有化になりそうな銀行リスト』のトップにいる銀行が「収益出せそう」と言ったひとことで、ギャンギャン盛り上がってはしゃいでしまう気持ちもわからなくもない。

しかし、今日11日には早くも息切れ、ラリーは長続きはしなかった。

   ★   ★   ★

シティのCEOパンディットのメモは、もう少し注意深く読む必要があるな。(メモの全文はこちら。)

メモで強調されていたのは次の2点。(1)シティの自己資本基盤は強い、(2)シティは収益上げられる会社だ、だから、現在の株価はシティの底力を正当に評価したものではない、と。

(1)と(2) について筆者の感想を述べてみたい。

まず(1)の自己資本について。

ここのブログの2月21日付けのエントリー『NYダウ2002年来の安値:国有化パニック』で、

【ストレステスト】というのは、幾通りかのプライス変動のシナリオをたて、そのシナリオに従って、金融機関が保有する資産に様々なストレスをかけてやり、予想される損失額が自己資本をどの程度毀損するか、「債務超過」になる可能性がどれくらいあるかを計測するテストのこと

と説明しましたが、覚えておられるでしょうか。

あの記事を書いた数日後に、当局が実際に損失シミュレーションをする際に用いる「前提条件」が公表になったが、次のような条件を「最悪シナリオ」としてストレスかけてみるそうだ。

1) GDPは、2009年にマイナス3.3%、2010年はプラス0.5%
2) 失業率は、2009年に8.9%、2010年に10.3%
3) 住宅価格は、2009年に22%さらに下落、2010年に7%さらに下落

現時点ですでにカリフォルニア州ほか数州では州内失業率が上記失業率を上回っているのと、住宅在庫も全米おしなべて過去最高水準にあり住宅価格の下げは当分止まらないと見られているため、これらの条件が果たして「最悪のシナリオ」に相当するかは米市場でも意見が分かれている。

シティのCEOバンディットによると、この政府が考えた最悪シナリオよりさらにひどい状況になったと仮定してさらに強いストレスをかけてテストをやってみたが、シティの自己資本の厚みは充分あり、債務超過に陥る可能性は低いそうである。

しかしね、筆者も現役でアナリストやってるころは、この「ストレステスト」ってのをずいぶんとやったものだが、ストレステストの結果というのは、前提条件の置き方次第で、実はどうにでもなるんである。

金融機関というのは、「リスク取ってリスクで稼ぐ」という商売であるからして、リスク管理の一環としてストレステストというのは、実際毎日やってるんですよね。

今回あらためてストレステストやってみたら、「あら不思議!気づかないうちに債務超過になってたわーっ!」とびっくらこくような金融機関なんていません、ってば。

だから、当局のストレステストの結果がどうなるかという点については、いまから答えはわかってる。

ストレステスト対象になってる銀行のうち、最大手の数行については、程度の差こそあれ、自己資本は充分という結果となり、テストにパスするでしょう。

ここの2月6日付けのエントリー『米国最大の銀行が国有化?(でも自己資本比率10%超もあるんですけど)』で述べたとおり、自己資本が充分ある銀行が国有化されることは定義上ありえないんである。(「充分あります」=「国有化しません」、ってことの【つじつま】つけるためにストレステストやるんだからね。)

ただし、ストレステストに代表される計量モデルってのは、所詮、静的(static)な「モデル」であって、サイコロジーを伴って刻々と生き物のように動く市場のダイナミズムまでは把握できない。毎日テストやってても、「前提条件」からぶっとんだ事態が実際に発生したら、モデル上で推計されていた額をはるかに上回る損失が発生しちゃう、というのは言わずもがな。

だからストレステストの結果は、注目してもしなくても、どっちでもいいような気もする。発表直後はポジティブニュースとして一時的に株価を支えるかもしれないけど、本質的な問題には、関係ない。

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次に(2)の『収益性』について。

CEOのメモの中に、こんな一文があった。

"In fact, we are profitable through the first two months of 2009 and are having our best quarter-to-date performance since the third quarter of 2007. "

『実際、2009年の最初の2ヶ月は、シティは収益を出しており、四半期でみれば2007年第3四半期(3Q)以来の好成績です。』

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メディアを筆頭に多くのひとが、ここだけ読んではしゃいじゃったみたいなんだよな。落ちついて次の文章も読みましょうね。


"In January and February alone, our revenues excluding externally disclosed marks were $19 billion."

『今年1月と2月だけで、外部公表されている評価損失を控除したシティの営業収入は190億ドルになりました。』


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"REVENUE"というのはコストを考慮する“前”の、トップラインの収入のことである。でも株主にとって身になる利益ってのは特別損失その他あらゆるコストを差っぴいた“後”の収益のことですかんね。トップラインの稼ぎだけでキャイキャイ盛り上がって、どうすんの。

たしかに、「コスト前の稼ぎ」だけに着目すれば、シティはかなりがんばったみたいだ。

メモをさらに読み進むと、「かなりがんばった分野」というのはグローバルM&A業務の分野で、そこから挙げた手数料収入が収益を押し上げたらしい、というのが読み取れる。

3月6日付けのウォールストリートジャーナルの記事によると、2009年の世界M&Aランキングでシティは堂々1位、欧州の大型ディールを中心に、総額1383億ドル(約13兆円)に相当する37本のディールにアドバイザリーとして関わったらしい。イギリス政府が発行するロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)のディールも含まれていて、こうした大型のM&Aディールから、かなりの手数料を稼いできた、ということだろう。

でも、このWSJの記事には、もうひとつ重要なことが書かれていた。今年シティが手がけた大型ディールにおいては、シティは「ローンの貸し手」としてはプロファイルをできるだけ低めに保っているらしい。また債券ディールでは全然出る幕ないらしい。シティのような大銀行というのは通常、「コーポレーション向け貸し出し」ができる能力があるので、大型ディールではたいてい「ローンの貸し手」としても名を連ねるものなんだが、おとなしくしてるんですね。

銀行として多額の貸出金を提供するとバランスシートがその分膨らんじゃって、自己資本比率が下がるという、いまのシティにはありがたくない結果になっちゃうからね。

つまり、シティの1月2月の収益押し上げ要因は、大型ディールに助けられた【一発屋的特徴】があるってことだ。今後も継続的にこうした大型ディールに関わり続けることができればいいですけど、そうじゃなかったら手数料は入ってこないもんな・・・。

ということで、筆者は、シティの「収益あげてるぞ発言」に対しては、かなり冷めた目を向けてたわけである。

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それよりも、筆者が朝から思わず身を乗り出してしまったのは、バーナンキ連銀議長の講演中の発言であった。

バーナンキの講演は、昨日の朝8時半からCNBC局でずっとライブで流されていたんだが、内容自体は、(1)銀行システムが安定し始めれば2009年内にリセッションからは脱出し2010年は回復基調の年になる、(2)FRB連銀は金融システム安定のため全力をつくす、といった骨子で、骨子だけなら、先月2月24日に米議会の公聴会で同氏が述べた内容と大差はなかった。

筆者がおっ!と思った発言とは、議長が自分の口から、

大手銀行群は大きすぎて潰せない(=Too Big To Fail)とハッキリ認めた

ということであった。

3月10日のバーナンキの講演全文はこちら



前回の2月24日の公聴会では、「大手銀行は<Too Big To Fail>なのか」という某議員の質問に対し、「そのフレーズは敢えて使う気はない」と言って議長はクネクネごまかした。

ところが3週間後、今度はハッキリと、【大銀行は潰せない、潰さない】という見解を議長自ら明示的に発言した。これは、筆者からみると、非常に重要だと思う。

クレジット市場がコンフィデンスを失って凍結したままになっている理由は「政府がさっさと国有化しようとしないから」ではなくて、「政府が何をしようとしてるか見えなくて不安だから」である。

こちらの週末のメディアでは、株価が下落し続ける状況にイライラを隠せない共和党議員たちが、オバマ民主政権への攻撃の一端に、「すぐにでも銀行を閉鎖するなり国有化するなり態度をハッキリさせろ、政府は手を尽くしているという強いシグナルをマーケットに示せ!」とわめき出していた。

TV番組に登場してワーワーわめいてた議員のひとりは、去年の大統領選でオバマと戦ったジョン・マケイン上院議員。マケインのほか、議会バンキング・コミッティのメンバー、リチャード・シェルビーも、国有化するのが市場を落ち着かせるのにいちばん手っ取り早いと騒いでいた。

だが、マケインは自他共に認める『救いようのない経済音痴』。

さらにシェルビーも、基本的にはクルッグマンなどの重量級マクロエコノミスト(←しかし、こと銀行問題については素人同然)の意見を読んだりして影響受けて、カッコいいから便乗してるってだけのヤツである。

バーナンキの昨日の朝の明示的な発言は、こうした「カッコいいから発言してみる」たぐいの政治家連中を黙らせるのが目的のひとつであったろうし、それと同時に、「米政府には大手銀行破綻を容認するチョイスはないのだ(だから何があっても大手銀行を破綻させない)」という強いメッセージを発信することにあったと思う。そして、そのメッセージを受け止めた市場関係者は少なくなかったとも筆者は思う。

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株式市場もクレジット市場も、最後にモノを言うのは財務のファンダメンタルズであるという点では同じであるが、株式投資とクレジット投資では、投資家が着眼しているものや相場を動かす要因が必ずしも同じではない。

従って、クレジット市場が凍結しているのが問題の核心部分である現在は、当局が取るべき手段はクレジット市場の不安要因を取り除いてやること、である。それは必ずしも、株式市場が当局に期待しているものとは限らないし、マケインら経済音痴の政治筋が発する【ノイズ】のせいでポリシーサイドに不必要な遅延が起こったりしたら、市場にはそれこそ逆効果だよ。

昨日のブルームバーグニュースの記事で読んだのだが、企業債市場では、欧州の一般企業が発行するシニア債券のほうが大手金融機関25社が発行するシニア債券よりも安い値で取引されているというのだ。9日のウォールストリートジャーナルでも、金融機関発行の債券相場がふたたび不安定になっているという記事を見た。

先月24日の公聴会でバーナンキは「シニアクラスの債券の流動性と返済能力の確保が極めて重要(と認識している)」と発言したのを、筆者は実際この耳で聞いたのだが、これらの記事を読む限り、クレジット市場のトレーディングフロントでは、連銀議長のそうした態度も、安心して取引を開始するにはまだ足りないと判断されているらしい。

銀行が発行するシニア債券のスプレッドがこんな有様だというのは、銀行セクターに対するクレジット市場のセンチメントはまだまだ悲観論が圧倒しているということの証拠だ。クレジット市場が落ち着かなければ、株式市場が待ち望んでいる「収益回復」がもたらされることは、ありえない。

2009年中に米景気がリセッションから脱出できるか否かも、すべては金融セクターの安定次第、とバーナンキは言っている。そしてここで言う「安定」とは「株価の安定」ではなく「クレジットの流れの安定」を指す。

債券市場の動きを吟味せずして、株価のボラティリティだけを眺め、いよいよ金融株も底を打ったと判断するのは片手落ちというものだ。

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今朝の取引開始直後は、前日からのギャンギャンな勢いがまだ余韻として残ってる気配だったので、筆者も、午前中はデイトレ参加。GSなど金融株を小一時間で小額売買し、ちょっとしたお小遣いを稼いだ。

こういう相場では、モメンタムに乗っかってデイトレで小遣い稼ぎするのが精一杯だ。長期買いに入るなんて、怖くて、できん。

デイトレは「投資」ではない。

真の意味での長期投資資金が戻ってこなければダウが恒常的に上昇局面に入ると断言するのは難しいよ。上がってもすぐに息切れしてしまう。今日のダウが息切れしたように。




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