Sunday, March 16, 2014

トランスアトランティック市場は依然として最重要

明日、3月17日は、セント・パトリックス・デー。

司馬遼太郎氏が(たしか、氏の著書「愛蘭土紀行」の中だったとぼんやり記憶するが)、芋飢饉で本国を後にしてアメリカ合衆国を目指したアイルランド移民たちを、「テーブルから転げ落ちる豆のように大西洋に浮かんだ」と表現していたが、その末裔達はアイリッシュ・アメリカンとなり、現在では約3千450万人、合衆国全体の人口の10%以上に増えた。本国の人口460万人の7倍という繁栄ぶりである。

米国では、そうやって移民してきたアイルランド人を差別し(下の古い新聞求人広告を参照)、安価な労働力として劣悪な住環境・労働環境でこき使った暗黒歴史もあるとはいえ、風とともに去りぬのスカーレット・オハラのような南部の大地主たちがいたり、またビジネスで財を成したケネディ一家からはケネディ大統領が生まれ、その後も、レーガン大統領、クリントン大統領・・・と続き、アイリッシュの血はアメリカのメインストリームの隅々で活躍し、現在に至っている。



No Irish Need Apply (アイルランド人お断り)と書かれた昔の新聞求人広告。こういう差別が実際に行われた。



シカゴと並び、アイルランド系移民とその子孫が多いニューヨークシティでは、大規模なパレードが毎年開かれ、マンハッタン5番街を行進する。年中パレードやってるニューヨークでも、セント・パトリック・デーのパレードは別格、群を抜いて見物の人出も多く、パレードの規模としてNYは世界最大だ。ニューヨークは市警官・消防士などの「制服組」にアイリッシュが多いこともあって、バグパイプのおじさんたちや可愛い子どものアイリッシュダンサー達とともに、制服組の行進も延々と続く。






世界中で開かれるセント・パトリックス・デー・パレード。お近くのパレード情報なら、こちらへ。
2014 Parade Worldwide


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さて、ここからが本題。

合衆国と欧州の間に横たわる市場を、「Trans-Atlantic Market」と呼ぶ。

かつてアイルランド人が「テーブルからこぼれ落ちる豆のように浮かんだ」大西洋(Atlantic Ocean)を挟んだ貿易圏・経済圏のことである。

ジョンズ・ホプキンズ大学による欧米間経済の研究チームが発表したレポートによると、トランスアトランティック市場はいまだ世界最大市場、ここ数年の欧州経済の不安定さやアジアとの関係(ちなみに、こちらは日本でもTPP(=Trans-Pacific Partnership)でおなじみ、「Trans-Pacific Market」と呼びますね)の成長にも関わらず、米国にとっては最重要のリレーションシップ。



(以下、同大学のリリースから抜粋および拙訳)

U.S. companies are the largest source of onshored jobs in Europe and European companies are the largest source of onshored jobs in America,(中略)・・・Up to 15 million workers are employed in the $5 trillion transatlantic economy, which despite recent turbulence remains the largest and wealthiest market in the world.

米国企業は欧州にとって、また、欧州企業は米国にとって、互いに最大のオンショア雇用ソース。近年の不安定な状況にも関わらず、5兆ドル規模の市場で1500万人の労働者が雇用され、依然として世界最大かつ潤沢な市場である。


The US and Europe are each other's primary source and destination for foreign direct investment. Since 2000 Europe has attracted 56% of US global foreign direct investment and China only 1.2%.

米国と欧州は、相互に、海外直接投資でソースあるいは投資先として最大。2000年以降、欧州は米国のグローバル海外直接投資の56%を引き付けたが、中国は1.2%のみ。


Ireland is the number one export platform in the world for Corporate America. US companies based in Ireland export 3.5 times more to the world than from Mexico and 5 times more than from China. US investment in Ireland is more than 6 times larger than US investment in China.

コーポレート・アメリカにとってアイルランドが世界最大の輸出プラットフォーム。在アイルランドの米国企業の世界への輸出額は、メキシコからのそれより3.5倍、中国からの5倍。米国からアイルランドへの投資は、米国から中国への投資の6倍以上。


US investment in the Netherlands alone is about 4 times greater, and US investment in the UK 3 times greater, than US investment in all the BRIC countries -- Brazil, Russia, India and China.

米国からBRIC4カ国への投資総額と比べても、米国からオランダへの投資のみで4倍、英国へも対BRICの3倍。 (*BRIC=ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国)



Since 2000, Europe has accounted for over 57% of the earnings generated abroad by U.S. companies. US companies earned 7 times more in the Netherlands alone than they did in China.

2000年以降、米国企業が海外で創出した利益の57%が欧州地域で占められている。オランダのみでも、米企業の利益は、中国で得た利益の7倍。


Europe’s sovereign debt crisis has forced European firms scale back their U.S. presence. Even so, Europe’s investment flows to the US were 4 times larger than to China. There is more European investment in a single US state like Georgia, Indiana or Minnesota than all U.S. investment in China, Japan and India.

欧州ソブリン危機の影響で、欧州企業は米国内でのプレゼンスを縮小せざるを得なかったが、それでも、欧州からの米国への投資フローは、中国向けフローの4倍。 ジョージア州、インディアナ州、ミネソタ州への欧州からの投資額は、それぞれの一州向けでも、中国、日本、インドへの米国の投資額を上回る。


45 of 50 US states export more to Europe than to China, and by a wide margin in many cases.

米国50州のうち45州が、対中国よりも対欧州の輸出額が多く、その他の地域向けでははるかに多額になっている。

(抜粋+拙訳、おわり)


さらに詳しく知りたいひとは、こちらがその研究レポートへのリンクです。
Transatlantic Economy 2014


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米国や欧州各国のそれぞれの国の個性の強さを無視し、「欧米は」 とひとつの言葉でくくってしまうと違和感が出る場面は実際多々あるけれど、こうして、「ひとつの経済圏」としてくくって数字をみると、そのリレーションシップの強さはハンパ無いというのも、よくわかる。

よく「欧州のひとはアメリカの田舎者が大嫌いで云々・・・」という話を耳にするが、米国と欧州は古典的LOVE&HATEの間柄、数字はウソつかない。



昨年の記事だが、米国と欧州連合の間のフリートレードを目指す T.T.I.P. (Trans-Atlantic Trade and Investment Partnership)の話し合いのためオバマが欧州に向けて出発するのに先駆けて、イタリアの外務省高官からNYタイムズに投稿されたラブレターである。

Pivot to a Trans-Atlantic Market


この記事の筆者は、両者は「腰で繋がっている間柄」と表現し、欧米間の経済的共同発展構想であるTTIPの重要性を語り、その実現を主張している。

(引用) It may well prove to be a Pacific century, buoyed by Asia’s economic dynamism. But at least for now, the United States and Europe remain bound at the hip — an enduring, perhaps reassuring, reality amid a world in flux.



では、みなさま、

Happy St. Patrick's Day!

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